「内定」の定義
内定とは、企業と応募者の間で雇用が約束された状態のことを呼びます。内定が成立するためには、応募者側と企業側、双方の承諾が必要です。選考後、企業から採用の通知があった状態では、まだ内定は成立しておらず、応募者が通知に対して承諾した時点で内定が成立します。
電話で採用の連絡があった際など、口約束でも内定は成立します。しかしその後、内定通知書や内定承諾書などの文書を取り交わすほうが一般的でしょう。ただし、場合によっては口頭やメールだけで内定を知らせ、書面での取り交わしがないこともあるので、メールでのメッセージはプリントアウトして保管、電話のみの場合は、内定をもらった日時、担当者の名前を記し、いつでも確認ができるようにしておくとよいでしょう。
内定取り消しが法的に成立する条件とは
応募者側が企業からの内定通知に承諾すると、内定成立により、労働契約が合意に至ったということになります。内定が成立すると、応募者は就職活動を終わらせ、別の企業の内定を辞退するなど、入社に向けてさまざまな準備を始めます。その状況下での内定後の取り消しは、「解雇」に相当し、応募者に多大なダメージを与えることになります。
では、解雇と同等の意味を持つ内定取り消しが、法的に成立する条件とは一体どのようなものなのでしょうか。
具体的には、以下のような条件があげられます。
1. 経歴詐称など、履歴書上や面接時に虚偽の申告があった
2. 健康状態上、就業が不可能であると判断された
3. 入社条件であった資格の取得ができなかった
4. 誓約書等の入社手続きに関する書類を提出しなかった
5. 重大な違法行為があった
6. 内定後の著しい業績悪化
7. 自然災害により事業継続が困難となった場合
このような場合、内定取り消しが正当な理由として認められます。
1~5は、応募者に非があり、「事前に分かっていれば採用しなかった」という事案が発覚した場合です。6は予測がつかないほど短期間で会社の業績が悪化し、雇用が難しくなるなど企業側に原因がある場合です。
「経営上人員削減が必要である」「整理解雇を回避する方向で努力を行った」「解雇する人選が客観的にみて合理的」「労働組合や社員との協議を行う」という条件をすべてみなしている場合、内定取り消しは正当な理由と認められ、法的に成立します。
7.は、予測のつかない自然災害によって、会社の建物や設備、周辺のインフラ設備が被害を受け、事業の継続が難しいと判断された場合で、労働基準法第19条および20条により、内定の取り消しが認められるものです。
そのほか、あらかじめ企業の内定通知書に記載された「内定取り消し事由」に該当することが発生した場合も、内定の取り消しを行うことができます。
不当と判断される内定取り消しについて
前述のとおり、内定取り消しには一定の基準があり、それに満たない不当な言い分は認められません。
たとえば、「後になって、もっと良い人材が見つかった」などのような、一方的かつ抽象的なものは理由として成り立ちません。また、業績悪化という理由についても、内定前に状況が予測できるたような場合は、正当な理由にならないと判断されるでしょう。
「内定」と「内々定」の違い
「内定」は、応募者と企業の双方の承諾を得て、正式に労働契約が成立している状態のことです。一方「内々定」は、労働契約が成立する前段階のことで、労働契約による拘束関係は発生しません。つまり、その差は労働契約が締結されているか否かという点で、契約関係による法的拘束力の有無が明確な違いとなります。
一般的に新卒者の場合は、倫理憲章上企業が10月まで内定を出せないという決まりがあるために「内々定」という言葉を使いますが、転職の場合はいつでも内定が出せるため「内々定」という言葉はあまり使いません。転職の場合に「内々定」を当てはめるとすれば、書面にて正式に内定を取り交わす前段階である、採用予定通知書を受け取った段階を「内々定」と呼ぶ場合もあります。
もし不適切な内定取り消しを受けたなら
内定取り消しは、法的に解雇と同等として扱われます。重大な過失が応募者側にある場合を除いて、企業側による不当な内定取り消しは許されるものべきではありません。.42%が所得税として差し引かれ、自分で確定申告をして精算することになるので気をつけましょう。
企業側の過失を追及する手段として、以下の方法があります。
- 労働基準監督署やハローワークへ相談する
- 損害賠償請求や慰謝料請求の訴訟を起こす
- 「従業員としての地位」を訴え、内定取り消しの無効や給与支払い請求の訴訟を起こす
労働基準監督署やハローワークに相談する場合、費用がかからず、相談もしやすいというメリットがありますが、企業に対して指導や是正報告を求めることしかできないため、納得のいく解決に至らないこともあります。
しかし、すでに入社直前だったため他社へ行くすべがない、などの窮地に立たされた場合、内定成立による「従業員としての地位」を訴えて、内定取り消しの無効を求める訴訟を起こすことが可能です。その場合、勤務開始予定日以降の給与支払いを求めることもできます。
一方、不当な内定取り消しを受けて、「このような会社では働きたくない」という理由から、今後この企業で働くことを選択しない場合は、迷惑料としての損害賠償請求や、精神的苦痛に対して慰謝料の請求の訴訟を起こすこともできます。
いずれの場合も、「解雇理由証明書」を企業から取得することをおすすめします。内定取り消しは解雇と同等ですが、解雇の場合、労働者が請求すれば、企業は解雇の理由証明書を発行する義務があります。訴訟を起こす場合は、解雇理由証明書を持参して弁護士へ相談するとよいでしょう。発行を拒否された場合も、その旨弁護士に伝えます。また、日頃から文書やメールなど、証拠となるような材料は保管しておくことをおすすめします。
このように、不当な内定取り消しに対する過失を求めることは可能ですが、訴訟を起こすことは時間と労力、費用を要します。それでもその企業で働きたいのか、それよりも気持ちを切り替え、転職活動を再開させることに時間を充てるのかなど、自分にとってベストな方法とメリットを考えた上で、どう対応するべきかを選択しましょう。
今回の要点
- 内定とは、応募者と企業の双方が承諾し、労働契約が成立する状態のことである
- 客観的に合理的、社会通念上相当と認められるもの以外の内定取り消しは、解雇と同等の意味がある
- 不当な取り消しを受けた場合は、「公的機関に相談する」「内定取り消しの無効や損害賠償請求の訴訟を起こす」などの対応が可能である
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